◆その28~お稲荷様の不思議~その1
今から二十六年ほど前のことでしょうか。地元に住む七十代の女性から、家に祀られているお稲荷を神社に納めさせてほしい、との依頼がありました。理由を尋ねますと、
「近くの拝み屋さんからこう言われましてねぇ。お稲荷さんなんて祟るモノ置いとくから、あんたの家にはロクなことがないんだ。私の主人が五十代で病気で早死にしたのも、息子が働かず家で塞ぎ込んでいるのも、みんな、あの恐ろしいお稲荷さんの祟りだと……」
私の祖母がそのおばあさんと知り合いであったので、そのお家のことはよく知っていました。確かに今はそのような不運な出来事が起こっているけれど、かつては名主を務め、随分と繁栄した時代もあったらしいことは、よく聞かされたものでした。そこで、
「おばあちゃん。お宅のお稲荷様は、もともと一族の守護神としてお祀りされたものだと思うのです。その御加護のもとで繁栄した時代もあった。祟る神を最初から祀る人なんていません。そのお稲荷様を粗末にして、お供え物をあげることもなくなったから、良くないことが起きるのだと思います」
するとそのおばあさんは、
「お若い神主さん。おっしゃるとおり、確かにうちは、昔は大層栄えた家で、小田原城のお殿様もお立ち寄りになられたとか……。その頃にこのお稲荷様をお祀りされたのですから、落ちぶれ果てた今だけで考えちゃいけないのですね」
「そうです。それにおばあちゃん、今でもお稲荷様は守ってくださっていますよ。以前、祖母から聞いたのですが、おばあちゃんは十年以上前に重いご病気をされたそうですね。それが今は、とてもお元気じゃないですか」
完治不可能の難病を患い、そのまま亡くなっても不思議ではない容体から回復を果たした――。私はそれが、このお稲荷様の御加護と思えてならなかったのです。おばあさんは、
「わかりました。神主さんのおっしゃる通り、お供え物もしっかりとあげさせていただきます」と納得してくださいました。
しかし、しばらくいたしますと、その時とは手の平を返したように、こう言ってきたのです。
(※その2へ続く)
この記事へのコメントはありません。