◆その47 除霊の失敗(その2)
陰陽師-穂積天佑のコラム
マスターが切り出したのは、例のホワイトレディーのことでした。
「実はこの店のオーナーが、変な噂が出たらまずいから霊能者に除霊をお願いすると言っているんですよ」
「マスター。あのホワイトレディーはこのお店にお客を呼ぶ“福の神”のようなイメージを感じるので、除霊してはいけないように思うんだよ」
そう私が答えるとマスターは、「先生、やはりそうですか。ではどうしたら?」と。
「あそこの彼女の定席に、私と同じの、置いてあげてくれる? マスターの分同様、今夜は私のオゴリで!」
「はい、承知しました!」。
マスターはカウンターの奥に彼女のためのアブサンを置き、私の隣に座りました。
二人で奥の席を見ると、いつの間にか白いドレスの女性がそこに座っていて、こちらにグラスを捧げニッコリと微笑んでいます。
私とマスターが「ホワイトレディーに乾杯!」とグラスを傾けると、チリリン! と店の扉の鈴が鳴り、何人かのお客が「マスターこんばんは!」と店に入って来たのです……。
それから一年後。マスターは家業を継ぐため山形の生家へ戻り、バーには新任のマスターが就任し私の足も遠のいていった頃に、こんな噂を聞きました。
「あのバーに近くの霊能者が来て大がかりな除霊をしたらしい――」。
数年後、マスターやホワイトレディーのことを懐かしく思い出しながらバー近くの川の縁を散策していたときに、ふとバーのある建物に目をやると、店の看板は外され扉には鎖が掛けられていました。
やはり、あのホワイトレディーはお店の「福の神」だったようです。
うすぐらき みせのおくなる しろきひめ まらうとまねく うづめとぞしる
(薄暗き 店の奥なる 白き姫 客人招く 宇受女とぞ知る)
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