◆その47-1 除霊の失敗(その1)

陰陽師-穂積天佑のコラム
私が30代半ばの頃に、よく通っていたショットバーがありました。
重厚な木目の美しいカウンター、レトロなゲーム機、ほの暗い店内。世代の近いマスターとの会話も楽しく、心落ち着く空間でした。

そのバーには不思議な出来事がありました。ひとつはお店のドアが時折、勝手に開いたり閉じたりすること。
もうひとつは、普段静かなバーに急に多くの客が訪れ盛り上がると、決まってカウンター奥に純白の長いドレスを着た20代半ばの細身の女性がうつむき加減で座りカクテルを飲んでいることでした。
「あの人誰? いつ店に来たのかしら?」と周囲の客が気付く頃にはもう、その席から姿が消えている……。

そんな彼女のことを、誰が言うでもなく「ホワイトレディー」と呼ぶようになりました。
ある春の宵、バー近くの川の縁にある桜並木に夢物語のような桜が咲き、花吹雪が舞うなか、私は店を訪れました。
一人で準備をしていたマスターは私を見て微笑み「アッ、穂積先生、いらっしゃい」と挨拶し席をすすめてくれました。
「マスター、いつものアブサン!」
「はい、どうぞ!」
「マスターも御一緒にどう?」
「はい。いただきます」――。
他の客が誰もいない店内でそんなやり取りをしたあと、私の隣に腰掛けたマスターが、こう切り出したのです。
「実は、先生に御相談がありまして――」。(つづく)
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